雑  感

2005年7月更新

(2023年2月18日ページ様式変更)

 

私のモットー

●真理の前に師弟なし

京都大学理学部・大学院の恩師である國司秀明先生(京都大学名誉教授)が,しばしば,学生に言われた言葉です(國司先生に出典を確認したところ,先生の造語らしいとのことでした).

私は,この言葉を「例え,教授・学生などのように身分・地位・経験が異なっても,真理を追究する研究者としての立場は同等である.指導者は自分の考えや方法を学生に押し付ける権利は無いし,学生は指導者に盲従してはならない.」ということと理解しています.このような考え方は,研究活動における師弟間のみならず,一般社会活動においても言えることでしょう.

社会活動においても,「世間の常識」を含めた「権威・権力」に盲従しないで,自分の頭で考えて行動・発言したいと思っています.

(2004年6月一部追加)

 

●多中有一一中有多

学生時代に所属していた京都大学心茶会の会長であった久松真一先生(京都大学名誉教授,「東洋的無」の著者)から学んだ事柄の中で,最も印象に残っている言葉の一つです.この言葉の禅的な意味は深長ですが,個性のあり方や,国家・組織・団体など集団とその構成員の間の関係をも示唆しているように思います.「情けは人の為ならず(他人を助けることは,結局,自分が助けられること)」や,ラグビーの「One for All, All for One」と一部で通じるものがあるとも思います.

(2004年6月一部改訂)

 

五省

鹿児島大学での恩師である髙橋淳雄先生(鹿児島大学名誉教授)と平成16年1月26日にお会いした際に,以下に示す「五省」が書かれたパネルを先生から戴きました.

五省(ごせい,五つの反省)

1.至誠に悖(もと)るなかりしか。

2.言行に恥ずるなかりしか。

3.気力に欠くるなかりしか。

4.努力に憾(うら)みなかりしか。

5.不精に亘(わた)るなかりしか。

http://www.urban.ne.jp/home/mitsu/kaihei.htmによると,この「五省」とは,「昭和7年(1932)4月24日軍人勅諭下賜50年記念日に、当時の海軍兵学校教頭兼監事長・三川軍一大佐(兵38期、後中将、能美島出身)が起案し、校長・松下 元少将(兵31期、後中将、福岡県出身)が裁可し、初めて訓育に活用された。爾来、海軍兵学校生徒は、夜の自習止め5分前のラッパ「G一声」が静寂な生徒館に流れると、当番の1号生徒が「軍人勅諭」5箇条に続いて、「五省」を各項目一つ一つゆっくり拝誦し、他の生徒はこれに合わせて黙誦し、その日一日の自らの行動や言動を反省自戒し、自ら人格の陶冶に努めた。自戒自律の根元を為すものであった。」とのことです.

高橋先生は,平成15年12月12日に京大会館で開催された,尾池和夫教授京都大学総長就任祝賀会(地球物理同窓会・地球物理学教室・共催)で,尾池和夫教授に,祝辞とともにこの五省を書いた小額を手渡されたそうです.高橋先生は,昭和17年9月に学徒出陣され,戦場で多くの友人を失われた経験から,尾池和夫教授への祝辞で「学生を戦場に送らないという基本方針を大学は持つべきです.戦争を防ぐためにも,人間の命を大切にすることを教育しなければなりません.」と述べられました.

世の不条理を知るつれ,やる気も失せ勝ちな昨今ですが,このパネルを自分の研究室に掲げて,日々の戒めとしています.

 

本を読もう

数ヶ月前にブログの世界を散策していて,以下ような長田弘の詩が紹介されているのを見つけました.

遥か昔の学生時代に長田弘の本を読んだ記憶はあるのですが,そのタイトルを忘れてしまいました.

とは言え,長田弘の言説は当時の私の感性に訴えるものがあったようです.

そのためか,この詩に出会った時には,心が動かされました.

(2005年7月)

 

 本を読もう。

 もっと本を読もう。

 もっともっと本を読もう。

 

 書かれた文字だけが本ではない。

 日の光、星の瞬き、鳥の声、

 川の音だって、本なのだ。

 

 ブナの林の静けさも、

 ハナミズキの白い花々も、

 おおきな孤独なケヤキの木も、本だ。

 

 本でないものはない。

 世界というのは開かれた本で、

 その本は見えない言葉で書かれている。

 

 ウルムチ、メッシナ、トンブクトゥ、

 地図のうえの一点でしかない

 遥かな国々の遥かな街々も、本だ。

 そこに住む人々の本が、街だ。

 自由な雑踏が、本だ。

 

 夜の窓の明かりの一つ一つが、本だ。

 シカゴの先物市場の数字も、本だ。

 ネフド砂漠の砂あらしも、本だ。

 マヤの雨の神の閉じた二つの眼も、本だ。

 

 人生という本を、人は胸に抱いている。

 一個の人間は一冊の本なのだ。

 記憶をなくした老人の表情も、本だ。

 

 草原、雲、そして風。

 黙って死んでゆくガゼルもヌーも、本だ。

 権威をもたない尊厳が、すべてだ。

 

 200億光年のなかの小さな星。

 どんなことでもない。生きるとは、

 考えることができるということだ。

 

 本を読もう。

 もっと本を読もう。

 もっともっと本を読もう。

  

長田弘「世界は一冊の本(晶文社、1994)」所収